photo: Satoshi Nagano

まちの先輩4人目:光井慎吾さん(便利屋デスティニー代表)

2016/12/06

ーー図書館・歴史資料館「ふくちのち」は、利用する人たちのさまざまな挑戦を応援する場所でありたい。このコーナーでは、そんな想いも込めて、すでにいろんな挑戦をされている“まちの先輩”に、活動のきっかけやエピソードをインタビューしていきます。

まちの先輩、第4回は福智町で「便利屋デスティニー」を営む光井槙吾さん。田川市の自動車部品製造会社で働いたあと、2011年に起こった東北大震災を機に、地元・福智町へ戻り、便利屋を立ち上げ、依頼人に寄り添う仕事を続けている。最初に、便利屋をはじめたきっかけについてお話しを伺った。

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光井:東日本大震災の様子を、メディアを通して目の当たりにしたことが、仕事を辞めるきっかけでした。一瞬で何もかもを失ってしまった人たちに一体何ができるのか。現地で一時的にボランティアとして動くのではなく、自分の仕事として人と直接関わり合い、継続して働きたい。そう思ったとき、これまでの働き方を見直すことにしたんです。ところが、仕事を辞めたものの今まで自動車の塗装を専門にしてきたので、世間にどんな仕事があるか知らなくて……。まずはハローワークに行き、どんな仕事があるのかを調べるところからはじめました。あらゆる現場で動けるよう自身のスキルを磨くには、現場を見ることが一番だと思い、土木、建築、警備、造園といった分野の会社をあたり、飛び入りで見学させてもらったり、実際に働かせてもらったりしながら技術を身につけていったんです。そして2012年、「便利屋デスティニー」を立ち上げました。

「便利屋」について、歴史をさかのぼって調べてみると、時代の流れに寄り添いながら、呼び名や“はたらきのかたち”を柔軟に変えているのがわかる。例えば、戦国時代においては、戦国大名と商人が近い関係にあって、資材の調達から情報収集、ほかの大名との仲介など、重要な役割を担っていた。江戸時代〜昭和において、地域の問屋や小売店がそれぞれの家庭に寄り添って、必要なものを聞いて取り寄せるような御用聞き的なはたらきをしていたこともあった。そのように便利屋の成り立ちをたどっていくと、さまざまな商業、コンサルティング業の源流を見ることができる。
参考:著・北島正元『江戸幕府の権力構造』(1978年/岩波書店)、著・大石学『首都江戸の誕生 大江戸はいかにして造られたのか』(2002年/角川書店)

現在、常勤スタッフは光井さんひとり。都市部にあるフランチャイズの便利屋のように、ノウハウを大勢の従業員が共有して、多くの仕事をこなすのではなく、依頼をいただいたお客さん一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを取り、寄り添いたいのだと語る。福岡市や北九州市といった福智町外からの仕事も多いそうだ。

光井:大まかに言えば、お墓掃除や草刈りなどの代行業務ですが、そのなかでも立ち上げたときから多いのは、片づけの依頼です。個人のお部屋から空き家、倉庫までさまざまな場所の片づけのご依頼をいただいていて、はじめは便利屋というより片づけ屋でした(笑)。Webサイトをつくって仕事の説明をしたり、また実際に利用してもらったりすることで、「片づけのほかにどんなことができるの?」とご相談をいただくようになってきました。

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(photo: 福智町役場)

便利屋は、分割され専門化が進む現代の仕事のしくみをほぐし、暮らしの間にうまく入り込んだ柔軟な働きができる、おおらかな職業のひとつだ。高齢化が進む現代において、福祉という枠組みではこぼれてしまう、これまでの仕事には収まらない要望の受け皿として。また、地域の人と人の小さな関わりをもう一度つなぐ存在として、さまざまな可能性を便利屋は持っている。ただ、いまのところは「仕事」の枠組みをどう定義し、どのように活動を継続していくか、光井さんのなかでもすり合わせをしているのだという。

光井:便利屋をはじめてから、お客さんに皿洗いのお仕事をいただいたことがありました。個人宅で、たった10分間の皿洗い。当時1時間ごとに金額を設定していたので、それだけの仕事でも1時間分のお金をいただくことになってしまうのです。そのときは、本当にこんな簡単なお手伝いだけでお金をいただいていいものかと悩みました。そもそも、困っている人を助けることは本来当然のことです。自分からはじめた仕事とはいえ、しばらく人助けをしてお金をもらうということにはなかなか慣れずにいました。

そんなとき、偶然テレビで放送されていた便利屋のドキュメンタリー番組を目にしました。そこには、僕と同じように皿洗いや部屋の片付けをこなす便利屋の姿と、さまざまな事情を抱えた依頼人の姿があったんです。世の中にはたった10分間の皿洗い代行を必要な人がいる。そんな小さな困りごとに応えることこそ、便利屋の使命なのだと気がつきました。

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光井:昔はご近所さんや親戚など身近に頼る人がいましたが、最近はみんな自分の範囲のことで手一杯で、頼みごとをしづらい環境になりました。現代において、便利屋は「困っているけど、どこに頼んでいいかわからない」ことをお手伝いする、言わば人助けです。だから僕の仕事を見て、「こんなにちょっとしたことでお金を払うくらいなら、自分が助けてあげよう」という人が現れてくれたらと願っています。僕の仕事は減ってしまうことになるけど、また昔のように近隣とのつながりができ、自然と人を助ける気持ちを持ってもらえたら、それが何より人のためになると思っています。

|インフォメーション|
便利屋デスティニー
〒822-1212 福岡県田川郡福智町弁城2535
http://benriya-destiny.com/

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