ふくちのブックレビュー

著・藤沢周平『蝉しぐれ』文藝春秋(1991年)
隣家に住む文四郎にお福。淡い恋心を抱く2人に訪れる数奇な運命。その運命の数々や、人を想い続けることの切なさ、儚さを、作者は実に活き活きと描いている。また、物語の中に出てくる情景の表現が素晴らしい。物語の佳境、欅御殿で文四郎とお福が2人だけの僅かなひと時の時間を過ごす場面があるが、この物語を知る誰かが言っていた「成就しない恋は清ければ清いほど懐かしい」という言葉を思い出さずにはいられない……。そんな、一作です。
著・池波正太郎『鬼平犯科帳』文藝春秋(2000年)
火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の活躍を描くこの作品は、1話完結のシリーズ時代小説である。鋭い推理力と観察眼を持ち、情に厚い平蔵の人間としての魅力を遺憾なく描き切り、また、平蔵を支える家族や仲間についても、江戸時代という特殊な時代にあって、それぞれの境遇や職務上の立場などをうまく垣間見せながら物語を紡いでいる。この本を読む時、弱きを助け、悪を憎んだ主人公をなぜか自分に置き換えてしまう。時代小説には、そういう力があるのかもしれない……。
著・池波正太郎『剣客商売一 剣客商売』新潮社(2002年)
無外流の老剣客、秋山小兵衛。これがとにかく強い。道場を閉鎖し、鐘ヶ淵に隠居した、今で言うなら定年退職した老剣客だ。小兵衛には、おはるという若い後添いがいるが、親子程も歳の離れた夫婦2人の掛け合いもテンポがよくておもしろい。老いて隠居こそしているが、好奇心が強く、物語の中でもその好奇心故にさまざまな事件に関わることになる。ついつい自分に重ね合わせて考えてしまうが、私も老いることの楽しさを味わいたいものである。

3冊の本を選んだ理由

年を取ると炬燵で休んでいても、すぐにウトウトしてしまう。「このまま時間も一緒に取られてしまうのではないか……。」そのように感じてしまうことさえある。そんな時、夜更かしをするには何が必要か? しばらく考えを巡らせ「本があるではないか!」と思い至るのだ。それも、とびきりおもしろい本が必要だ。私は、歳と共に時代小説が好きになった。とりわけ池波正太郎、藤沢周平の作品だ。登場人物の人間模様・心の機微、物語の中で描かれる情景描写が実に素晴らしいのだ。さて、今夜は何にしようか。『鬼平犯科帳』、『剣客商売』、それとも『蝉しぐれ』にしようか。どの作品も夜更かしにはうってつけだ。特に『蝉しぐれ』は、ワクワクしてページを繰る手を止められず、一晩で読み切ってしまった覚えがある。福智町に新しく誕生する図書館・歴史資料館には炬燵はあるのだろうか? あればおもしろい! みなさんも、眠りたくない夜には時代小説を読んでみてはいかがでしょうか?

黒土孝司[福智町副町長]
昭和28年生まれ。旧赤池町役所に入庁後、企画財政課係長や学校教育課長などを務めたのち、平成26年に退職し、平成26年9月からは中央公民館長として勤務。“まちづくり”は“人づくり”をモットーに、役場職員も町民のみなさんも笑顔の絶えない環境づくりに取り組みます。

一覧に戻る