ふくちのブックレビュー

著・俵万知 『サラダ記念日』河出書房新社 (1987年)
31音しかない短歌は簡潔でなければならない、という短歌界の常識を覆し、「無駄があって良い」と宣言した本だ。
有名な「寒いねと話しかければ寒いねと応える人のいるあたたかさ」は、「寒いね」以下の27音は、短歌的には無駄。だからいい。
著・高橋新吉 『ダダイスト新吉の詩』日本図書センター(2003年)
声に出して……という例の本には、おそらく採られない。
声に出したくはなるだろう。だが、朗々とは読めない。絶叫だ。何せダダだ。
「皿」を絶叫してほしい。もっともっと、読まれていい。
著・小川洋子『人質の朗読会』中央公論新社(2011年)
「号泣」は、変だ。と言う詩人がいた。号は大声、泣は啜り泣きだから1人で同時にできる訳がない、と。そんなことを言っているからつまらない詩しか書けなかった。
ここで小川洋子は、静かに叫んでいる。泣いてもいい。

3冊の本を選んだ理由

学生の頃のこと、高架下で電車が通過するのに合わせてトランペットの練習をしていた友がいた。無論、練習は嘘ではないがそれだけではない。思い通りにならないことへの悲しみや、世の理不尽さへの呪詛も吐き出していた。いいと思った。夕日に向かって走ったり、海に叫んだりするのとちょっと似ているが、こちらの方が陰がある。奥行きがある。カッコいい。しかし、どこにでも高架がある訳ではないし、ラッパが吹けるものでもない。心でトランペットを吹いて、自分の弱さを許せる3冊を用意した。そして、高架は無くとも、図書館は心のトランペットを吹いてよい場だ。ふくちのちは、きっとそんな場だ。そこで、みんな盛大に吹けばいい。

野口和夫[朗読家]
1962年、埼玉県の今は亡き大宮市の生まれ。現在は直方に在住。語り・朗読「宙のサカナ」代表。北九州市市民活動サポートセンター専門相談員。演劇作業室紅生姜室員。が、これらはただの肩書き。本と人が好きな中年男。勤めは、直方市立図書館。

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