ふくちのちを設計して

2017/03/19

ふくちのちの設計についての連載もこれで最後になりました。最後にあらためて、ふくちのちの全体の構成について、そしてそこで起ってほしいと思っていることについて書きたいと思います。

私たち設計チームが福智町の嶋野町長に初めてお目にかかったとき、町長は「福智町だからこそ、図書館が必要なのだ。それは、本の中の世界だけは誰にでも平等に開かれているからなのだ」とおっしゃいました。人が何かを学びたいと思うとき、その機会がすべての人に平等に与えられているとは限らないのが、今の私たちが暮らす社会の現実です。でも図書館は誰もが、無料で訪れることができる開かれた学びの場です。「図書館に通って、ノーベル賞がとれる。そういう図書館をつくらなければいけない」。知人の建築家はそう言いました。誰もが訪れられる場所だからこそ、閉じられたコミュニティのみの場所とならずに、気軽にいつでも気持ちよく訪れられる場所であってほしい。元気な気持ちのときにも、少し落ち込んでいるときにも、来られる場所であってほしい。訪れたら、本当にノーベル賞が取れるくらい、広く、深く、知識を掘り下げて行ける場所であってほしい。あるいは、今までに出会うことの無かった人や出来事、価値観と出会える場所であってほしい。そう思っています。

私たちに与えられた赤池支所は、そのためにふさわしい空間構成を持ち合わせていました。それはすなわち、中央に大きな吹き抜けを持っていたことと、建物の目の前に大きな公園があったことです。ですから、中央の吹き抜けの空間は、これまでの図書館よりもずっと自由でのびのびとした、広場のような空間として設計しました。1階には、カフェ、ものづくりラボ、児童コーナー、郷土資料展示、キオスク、クッキングラボなど、賑やかな機能がたくさん溢れています。また、「たくさんの本に囲まれている」ということが空間全体として感じられるように、2階の吹き抜けまわりに本棚を配置し、1階にいても2階に本が並ぶ様子が垣間見える構成としました。2階には、畳のある小上がり、静かに本を読めるサイレントルーム、講座が開かれたり自習室として使われたりする多目的室、少人数で使えるグループ学習室があるほか、窓の外には美しい福智山が見える静かでゆったりとした空間としました。

工事に際しては工事監理を地元企業がお引き受けになり、私たちは意図伝達業務というかたちで設計内容を伝えて行くことになりました。ふくちのちをつくり上げた役場の運営チームのみなさま、監理者・施工者のみなさま、家具備品を引き受けてくださったみなさまに感謝いたします。いよいよ家具・カーテン・照明などがぞくぞくと設置され、司書のみなさんの大変な準備が続く、オープンに向けて慌ただしい時間を迎えています。しかし、建築は完成したら終わりではありません。出来上がってからも、きっと使ってみてからわかることがたくさんあると思います。できることならば、これから図書館を使い始める福智町のみなさんと、引き続き空間を更新して行きたい。いろんな可能性をこれからもともに考えていけるといいなと思います。

大西麻貴 [建築家/o+h]
1983年愛知生まれ。2006年京都大学工学部建築学科卒業。2008年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2008年 同大学博士課程在籍中に百田有希とともに、o+h(大西麻貴+百田有希)建築設計事務所を設立。

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