ものづくりの視点と試作 〜上野焼編〜

2016/07/26

ーー「つくること」を生業(なりわい)にしているデザイナーの吉行良平と、「ふくちのち」設計チームの一員でもあるデザイナーの原田祐馬が、さまざまな福智町のものづくりの現場を訪ねました。そこで得た視点から、試作をつくり、手を動かす会議の全記録。

第1回は、上野焼の窯元を訪ねました。上野焼は福智町を代表する伝統産業です。その歴史は古く、発祥は今から400年以上前の1602年。江戸時代前期の高名な茶人でもあった大名、細川忠興が上野に登り窯を築かせたのが始まりで、現在も20の窯元が上野焼を継承していると聞いています。
詳しくはこちら → http://www.town.fukuchi.lg.jp/shiru/aganoyaki_1.html

フィールドワークの写真を見ながら、2人で感じたことをぼそぼそと話し合いました。

DSCF3015_ok

原田:福智町といえば上野焼! ということでまずは庚申窯さんを訪ねました。上野焼の特徴は、釉薬の種類が多く、薄物。それを魅せる力強い器が上野焼には多い印象。例えばこれ、ハクション大魔王(笑)。これは古いものだと聞いたのだけど、1歩、抜けた愛嬌があるから好きだなぁ。
吉行:釉薬の種類も色々とあるだろうけど、技法を追求する中で偶然できたものが、表現の幅を拡げているなぁという印象を受けた。それにしてもハクション大魔王、用途が気になる。

DSCF3017_ok

原田:これも良いなぁ。ブツブツとした虫喰。釉薬だけでなく、かたちも良い。
吉行:確かに、整いすぎていない造詣のおもしろさがあるわ。茶器から発展していった産地なので、生地が薄く軽量だとも聞いていたけど、かたちの視点が見えてくると、また違ったおもしろさがあるのかも。プロトタイプやテストピースがそのまま残っているのも興味深い。庚申窯の窯元である高鶴さんにどんな道具使うか聞いたら「やっぱり手が一番」という言葉が印象的やった。

IMG_8975_ok

原田:手でつくっているからこそ、できることがある。この写真の作品も土を手でギュッと握っているだろうなぁと思うかたちとか。沢山の試行錯誤からひとつを生み出して、それを楽しんでいる気がする。
吉行:そうそう、奇抜すぎてほかのところでは失敗とされるようなものを、自分たちの解釈でおもしろがって良いとしているところに、つくり手としての自由を感じる。
原田:柳宗悦が1985年、『手仕事の日本』という本の中で、昔の面影がないほどに衰えてしまった地域のひとつとして唐津や上野のことを書いていたけども、そこから30年経って、状況も変わっているのかもしれないなぁ。
吉行:こうして見てみると、良い意味でおおらかだなぁと思う。古くからのルールに縛られてなくて、今の人が上野焼をつくっているような感覚を産地の人は持っているのかも。
原田:お茶の道具から始まったというのはとても大切な根元なんだろうなぁ。なんとも言えない崩れたかたちが良いとされていた時代の意識が、ものづくりのDNAに残っていて、手で握っただけのかたちをみて、僕らがドキドキしたのは、その歴史が器を通して伝わってきているのかなぁ。

DSCF3026_ok

吉行:高鶴さんが、目の前でかたちをつくるところを見せてもらったのも感動したわ。均質にかたちをつくるために息を止めて轆轤(ろくろ)をまわすと言っていたけど、その反面、ただ綺麗なものというよりも、手でつくっている幅というか、勢いがある。
原田:そういえば、先日、信楽で陶土を触らせてもらったんだけど、想像以上に力がいるし、バランスをとるのが難しかったわ。初めてだったけど、身体の力を器に写していく感覚が少しだけ体験できた。
吉行:高鶴さんを見ていると、簡単にすーっと立ち上がってるように見えてたけど、すごいんやね。つくってる現場を見せてもらうのが僕はすごく好きで、見たことのない道具がどう使われているかに興味がある。また、職人さんたちは身の回りのものを道具に転用するのがすごく上手で、そういうところに憧れてるわ。なかなか真似ができないけど。

DSCF3070_ok
渡さんの工房の道具たち

吉行:庚申窯の次におとずれた渡窯、陶器に模様をつけるためにレーザー水平器を導入しているのも驚いた。使えるものは使ってみようという精神で、渡さんは幅広く道具を使っていたなぁ。伝統工芸でよく聞くのが、例えば、ちりめんだと織機の機械部品がなくてつくれなくなるという話とか。でも今回みたいに、手づくりでも既存のものでも、いつでも用意できる道具がある状態をつくれたら、人に伝えやすくなるし、ものづくりが途切れにくくなるので、魅力のひとつだなと。

DSCF3065_ok

DSCF3071_ok

原田:渡さんに、見せてもらった道具の中で、僕が感動したのは、模様をつけたりする浮造りの木片や、籾がついた状態の藁。こういう道具から、ものをつくる人たちの魂が見えてくる気がした。このように道具から考えることは、デザインにおいてもヒントがある。

DSCF3042_ok
高鶴さんのトンボ

吉行:一方で、トンボなど寸法がきっちり決まった定規のような道具もあった。模様づけをする前の工程には、精巧につくる工程があって。その精巧につくられたルールを崩すような自由度の高い道具が、絵つけの道具として存在するのがおもしろい。ほかの窯元さんも同じようなことをしているのかなぁ。

DSCF3110_ok

DSCF3109_ok

原田:そんな道具の中間に存在しているなと思ったのは、赤貝の貝殻。渡さんが家族みんなで、拾いに行っているそう。陶器を焼くときに端が垂れないように支えとして置くものなのだけど、貝自体の模様がパターンとして印字されているように見えた。
吉行:さらに、置くときにできる貝の跡を見て、その種類でつくられた時代や産地がわかるという話もおもしろかった。皿の裏を見るというのは焼き物の鉄則なんだなと感動した。皿の裏にも歴史がちゃんとある。
原田:自然にある模様を写し取るようなことを前面に出してくるのも可能性がありそう。
吉行:その産地に生息しているものを敷いてみたり、曖昧な存在なのも自然で良いなぁ。

DSCF3091_ok

吉行:器を焼くときの燃料として使う松の話もおもしろかった。上野には松が自生していたから、焼き物の文化が土地に根付いて栄えたそうなのだけど、松が採れなくなった今は、古い家を壊したときに出る松の廃材を使っている。燃料置き場に積み上がった廃材も、これが焼き物になるんだなと思うとおもしろい。さっきの道具の話にも共通しているけれど、「その時代にある、その土地のもの」を使って、ものづくりをしている。
原田:登り窯の火入れを見る機会があって、本当に長い時間かけて沢山の木を燃やすんだなぁと思ったことがある。渡さんのところでは年に1回。登り窯に火を入れて、火を囲んで、まわりの人たちが集まってきて、ワイワイする。火を入れることは、お祭り。そういうときに、赤貝も食べてたらおもしろいけどね。材料まで出来上がる、みたいな(笑)。

DSCF3068_ok

吉行:最後に、これが実は一番驚いたんやけど、みんな作業場に大きいスピーカーを持っていて、渡さんは作業のときのBGMがめちゃめちゃパンクだったから、つくっているものとのギャップが……。高鶴さんが息を止めてかたちづくりしている間でも、そういうときも自分の周りの環境というかリズムは大事にしている感じがした。
原田:音楽の興味が器に直接的に影響しないのは不思議。聴いているものによって、手から出てくるものは変わりそうだけど。
吉行:もしかしたら、僕たちには見えない、細かい部分に影響してるのかもしれない。
原田:確かに、精神性には共通している部分がありそう。アグレッシブな精神性。模様をつけるのにレーザー水平器を使うようなところとか(笑)。

次回は、お昼ごはん編です!

原田祐馬
1979年大阪府吹田市生まれ。「UMA / design farm」代表。大阪を拠点に文化や福祉、地域に関わるプロジェクトを中心に、グラフィック、空間、展覧会や企画開発などを通して、理念を可視化し新しい体験をつくりだすことを目指している。「共に考え、共につくる」を大切に、対話と実験を繰り返すデザインを実践。京都造形芸術大学空間演出デザイン学科客員教授。

吉行良平
1981年大阪生まれ。オランダのデザイン事務所を経て「吉行良平と仕事」を立ち上げ、プロダクトデザインを中心に商品開発やプロジェクトを行っている。 日常の情景、つくり方を通して、頭と手を動かし実験、検証していくことであるべき、色やかたちを探っている。

一覧に戻る